【インタビュー】第2回 ピアニスト 横山幸雄さん<前編>僕自身が「音楽の力」で生きているようなものです

世界で活躍する音楽家の方にご協力をいただき、音楽への思いやご自身の音楽体験についてうかがう「みんことスペシャルインタビュー」。第2回はピアニストの横山幸雄さんです。

日本を代表するピアニスト、横山幸雄さんのインタビューです。横山さんにとっての「音楽の力」についてお聞かせいただきました。前編・後編にわたってお届けいたします。

▼横山幸雄さんのオフィシャルサイト

僕自身が「音楽の力」で生きているようなものです

小さいころから、ピアノを弾いていないという自分の記憶がないです。気づいた時には弾いているのが当たり前の生活。食事と一緒で、今日はちょっと少なくていいかな?あっさりしたものでいいかな?という日はあるけど、何日も食事を食べないことって、断食道場に行かない限りないでしょ?それと同じ感覚です。

子どもの頃にLPレコードが大好きだったのは覚えています。年がら年中、起きては聴き、食事の時に聴き、時間が空いたら聴き、寝る前に聴き、という感じでした。そして気が付いたら音楽(ピアノ)が中心の生活。小学校に行っても、頭の中に音楽は流れているし、指も動いているし、家に帰ればピアノを弾く。いまだにそれが続いています。

音楽は、特に生演奏の場合、演奏家と聴衆が音楽を媒介して一緒に呼吸しているような感じがあると思います。演奏が終わると一体感と高揚感、ときには幸福感を持ってお互いにそれを共有しながら終えられるというのは音楽そのものの力ですね。

去年(※インタビューは2013年におこなわれました)でデビューしてから20年になりました。最初の頃は「どんな演奏をするのかな」という好奇心で来てくださるお客様が多かったと思うのですが、今は「いい音楽を聴かせてもらいにいきたい」という気持ちの方が多いことを感じます。だからこそ、一体感が生まれるし、僕としてもそれが自信につながって、より良い演奏をうみ、それが次につながって、更なる感動があって、今度は友達を連れてきてくれて…というように輪が広がっています。料理も「どんなもの?」って食べるのと「きっとおいしい!」って食べるのとでは違うように、最初の期待感がさらなる一体感や高揚感に結びついていると思います。

僕の20年前の演奏と、今の演奏と、僕の中ではそんなに違っているつもりはないのですけど、たぶん違うでしょうね。それはほんのちょっとした僕の気持ちとか、経験の違いだと思います。

要は僕自身が音楽の力で生きているようなものです。

音楽を通して、完全に満ち足りた幸福感を感じる

音楽を媒介してお客様と一体感や高揚感を得られる、という話をしましたが、共演者がいる場合、同様に音楽を通してコミュニケーションをとっています。普通に話しているときは、ひとつの単語の使い方や、同じ言葉でも人によって意味が違いますよね。

例えば、自分は心から信頼されているのか、それも言葉だけではわからないことも多い。「楽しいね」「うん」という会話があっても、お互いの楽しい度合いは測れない。でも、音楽を通してそういったものを感じると、そこには完全に満ち足りた幸福感があります。

インタビュー中の写真

室内楽の場合、2人で演奏するとしたら、そこには役割分担があります。室内楽でのピアノの役割は、全体の流れをつくり、相手のソリストを包み込むような役割が多いですね。僕は性格的にたぶんそっちのほうが好きなんです。自分ひとりでガンガンどんどん行くのはどちらかと言えばそんなに好きではなくて、人のサポートをしているときの方が、本来の性格的には好きです。そこにポンと相手が乗ってくれたり、僕が「こうだよ」と用意したところに一緒に来てくれると、楽しいなと思いますね。

普段の性格も包み込むようなタイプか、それは…スタッフから意義がありそうな視線を感じるので、コメントは控えさせていただきます(笑)でも、音楽は完全に人そのものですね。

音楽を”生きたもの”にするために<ピアノを弾きつづける理由とは>

音楽を生きたものにするには、誰か生身の人間が弾きつづけないといけないです。今は、ベートーヴェンもショパンもブラームスも、生では聴けないですからね。僕は、子どものころから音楽をやっていて、僕なりに「この曲はこうであってほしい」という思いを持っているものがあります。それを表現するために弾く、ということでしょうか。自分でそう思っている音楽が、他の人の演奏よりも、自分で弾く方が理想に近ければ弾き続けます。この人のほうが良いんじゃないの?と思った時は引退したほうがいいですよね。

クラシックの曲は無数にあって、毎日何百回何万回とやっても別の魅力が出てくるものだと思います。だから自分一人ではできない以上、自分がより得意だと思うものに磨きをかけていければいいかなと思っています。僕の場合、ベートーヴェンやショパンが圧倒的にその比重を占めているのです。

横山幸雄さん、ありがとうございました!

後編は、子どもたちにとっての「生演奏の体験」とは?演奏家にとって必要なこととは?
NPOみんなのことばの活動に触れて、横山さんがご意見を聞かせてくださいました。どうぞお楽しみに!

後編を公開しました

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