感受性豊かな気持ちを持つことは自分の助けになる|【第1回】先生インタビュー 言問幼稚園③(東京都墨田区)

長年にわたり、みんなのことばをご利用いただいている幼稚園や保育園、学校の先生方にお話をうかがう「先生インタビューシリーズ」。第1回は、言問幼稚園(東京都墨田区)の小林昭寛園長先生と小林麻衣子副園長先生をお訪ねしました。今回はその3回目。

言問幼稚園では毎年、参加型クラシック「みんなのコンサート」の開催のほか、正課プログラムとして、年長さんには「おんがくかい」を、年中さんには「音楽体験教室 おとあそび」を通年で導入されています。

「みんこと」との出会いからその交流で変化していること、今後の「みんこと」への期待、そして言問幼稚園の教育理念、コロナ禍の3年間の挑戦などについて、3回にわたってお届けしています。

2023年3月、インタビューにお答えくださった園長先生と副園長先生

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クラシック音楽への導き方、関わり方で子どもたちが変わる

園長先生

音楽は良い経験もあれば悪い経験もあります。

私が小学生のとき音楽鑑賞教室があったのですが、学校のみんなで行ったその鑑賞会で、先生から「身動きひとつしてはいけない」というようなことを言われてクラシック音楽を聞きました。それが嫌で、その音楽のなにがよかったのか、さっぱりわからない経験となってしまいました。しかもその体験から「クラシック音楽って面倒くさい」と思ってしまったんですね。子どもがこの体験から入ると、「クラシック音楽はなにが楽しいんだ?」って思ってしまう。

かといって、音楽の場がフレンドリーだからみんながクラシック音楽に馴染むかというと、そうでもありません。だから、園としてはいろいろな要素が欲しいと思っています。先生に憧れるとか、単純にクラシックは楽しいということを伝えてくれるとか、楽器を演奏することが楽しそうとか、いろんな引き出しをもっている方が園に来てくださるとうれしいですね。

副園長先生

生の音楽を聞くと、なんだかゾワゾワっとする感じがありますよね。自分が演奏しても、聞いていても、もちろんポップスとかロックでも、音楽にはどれもそれに似た感覚を持てます。特にクラシック音楽を聞いたときのゾワゾワって、やっぱり私はすごいと思うので、そんな気持ちを子どもたちにも感じやすくなってほしいなって思います。子どものうちにゾワゾワを感じるのは無理でも、音楽療法ではないですが、音楽を聴いてとがっていた気持ちが柔らかくなるとか、そんなことにつながってほしい。ストレス社会なので、音楽を聴いて感動しやすく癒されやすい感受性を持ってほしいです。感動しやすい気持ちを持てたら、ちょっと聴く音楽ですごく助けられるのではないかと思うんです。今、メンタルクリニックを利用する人がすごく増えているそうです。クリニックにかかる必要が出る前に、ふとしたことで感動できて、自浄できる力があるといいのではないかと。

これからの時代は、「何かができる」ということも大切なことですが、感受性豊かな気持ちを持っていることのほうが自分の助けになるんじゃないかな、と思うのです。それが、子どものときに心に触れる音楽を聴いたことがあるだけで、その後の人生にすごく大きく影響するかもしれないですよね。

園長先生

ああ、あれ楽しかったなって。思い出したらなにか気持ちが上向きになったなって。そういう引き出しを増やしてあげるのが幼稚園の仕事なんじゃないかな

お医者さんなど専門の方に救済方法を求める前に、自分でその術としてなにかを持っているって、大切だと思います。たとえばそれが熱中するもの、そしてそれが音楽であったり、ものをつくったり、なんでもいいと思うんです。誰かがなにかをしてくれるのを待ったり、とにかくスキルをあれもこれも身につけようとすると、これからの社会、もうパンクしてしまうのではないかと心配になります。そこの手助けとして幼稚園があって、みんなのことばさんの力もお借りしたいと思うんです。

生の演奏だから伝わる音楽のすばらしさを再認識

園長先生

やっぱり音楽のいいなって思うところは、難しいことを考えずに聞いたものをそのままいいなと受け止められること。そして演奏を聞いたあとに鼻歌を歌ったりとか、そばにあった楽器をつま弾いていたりとか、そういうことがいいと思うんですよね。なんか気がついたらやっていた、みたいな。そういうことって、心に残りやすく、染み込みやすいことの証。しかも、目で見る、耳で聞くだけではなくて、たとえば演奏を通して空気が震えるのを感じるとか、対面で体験したことからいろいろなものを感じ取ることができるのは、子どもたちにとって意味があると思っています。コロナでリモートでの機会が増えましたが、だからこそ対面の、そして生の演奏の尊さが改めてわかった気がします。

副園長先生

はじめてコンサートをお願いしてびっくりしたのが、リハーサルのすばらしさです。リハーサルからとっても真剣な空気が流れていて、まさにプロフェッショナル!外に漏れてくる音を聞きながら「おー!」と、そこでもゾワゾワって。そして「そうそう、この感覚!」「この感覚を少しでも子どもたちと先生方に感じ取ってほしい」と思いました。

園長先生

対面だけではなく、リモートにもいろいろ可能性があると思っています。コロナ禍にリモートという手段を使えるようになって、先生方がつくってくれたYouTubeの限定配信をしたりして、手探りでしたが「ああ、よかったんだ」と感じました。対面の方法だけやっていては気がつかなかったかもしれないその可能性や重要性が、リモートやYoutubeを取り入れてみて、気づくことができたのだと思います。

コロナをきっかけに変わった子どもたちへの対応

副園長先生

先生方主導で、アイデアを出して実行してくれることがすごく増えました。もちろん、それがいいときもあれば、差し迫ったころにアイデアが沸いてバタバタして、もうちょっと前から準備したほうがよかったね(笑)、ということもあります。ただ、従来のやり方でやっていればOKということが減ったので、それはすごくいいことだと思いますね。先生方から「どうしたらいいですか?」より「これやっていいですか?」が増えてきたのが、とても嬉しいと思っています。

園長先生

いままでであれば、それこそ何十年の積み重ねがあるので、大胆な方向転換は難しかったと思うんです。新しい試みには「でも、これ前にやったことないよね」って躊躇してしまっていたんですね。ですから、そうせざるを得なくなったときは、みんな大変で、どうしよう…となっていました。経験は積み重なると経験値にもなるけれど、かたい重石にもなっていたんですよね。

でもコロナをきっかけに、それぞれ経験や個性の違う先生たちの持ち味を保育に生かしていきたいよね、と話をするようになり、「私はこれが好き」「これがしたい」という声が出てきたり、聞いている私たちも「あ、それいいね」と言えるようになりました。カチコチになっていたものが少し柔らかくなっていったような、ある意味、コロナで強制力が働いたからできたことなのかもしれません。

副園長先生

「今年すごく大変だったけれど、楽しかった」と先生方が言ってくれたのは、本当に嬉しかったです。こういう状況で「もう大変です!」って、ドヨーンとしてしまう時代もありました。大変だったけど楽しかったという言葉が聞かれるようになったのは、本当に良かったと思います。もちろん先生方なりの悩みはあると思うんですけど、うちの先生方は「でも、楽しもうよ!」みたいなところがあるんですね。そんなところが大好きで、ものすごく頼もしいです。

2023年3月、インタビューにお答えくださった園長先生(右)と副園長先生(左)
園長先生

先生たちがどんな場面であっても楽しもうという気持ちを持てるかどうか。そう思えるように、どう環境を整えたり、先生たちの困りごとを理解できるようにするか、そこを大切にして、私たちは頑張りたいと思っています。

副園長先生

「おとあそび」を導入したときも、それを楽しいと先生方は思ってくれました。「楽しいですね」「子どもたちの反応がおもしろいし、かわいいです」と言ってくれる先生ばかりだったので、うれしいです。先生たちが楽しんでいる子どもたちの姿を見て、自分たちも楽しくなってくれる。音楽を保育に取り入れることも、みんなすごくいい活動だと思ってくれています


園長先生、副園長先生、貴重なお話を本当にありがとうございました。
また、今回のインタビューを最後までお読みくださった皆さま、ありがとうございました。

言問幼稚園さんでは現在「みんなのコンサート」のほか、正課プログラムとして、年長さんには「おんがくかい」を、年中さんには「音楽体験教室 おとあそび」を通年で導入されています。

これからも言問幼稚園さんでのコンサートやプログラムは、コンサートレポートで報告しますので、ぜひご覧ください。

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